バガボンドから始まるスラムダンクフィギュアへの道

~The spirit collection of INOUE TAKEHIKOシリーズ総合監督であるエムアイシーの社長 鈴木剛インタビュー~

スラムダンクOne and Onlyシリーズが発売になりました。十数年続くスラムダンクフィギュアの原型を手掛けてきた、社長 鈴木剛のスペシャルインタビュー。バガボンドから始まった制作秘話を大公開!

<シリーズを手掛けることになった経緯>

早速ですが、「The spirit collection of INOUE TAKEHIKOシリーズ」を製作することになったきっかけを教えてください。

鈴木:14年ぐらい前に、スラムダンクの漫画の正規版を中国で出そうとしていたライセンサーのムーラン様と親会社の役員が知り合ったことから始まります。「フィギュアを作ったら(井上先生に)見ていただけないか」と提案したところ「見てもらえるかどうかわからないけれど、話はしてみます」ということで自分としては、バガボンドの武蔵を作りたかったので、とにかくまずは作ってみたわけです。完成後に幸運にも先生に見ていただく機会があり、気に入っていただいた…そこがスタートになります。

バガボンドが好きな理由とそこからの展開は?

もともと井上先生の絵と作品がとにかく好きでした。
そこで先生にバガボンドの原型を気に入って頂いた後、先生サイドから「このテイストで、スラムダンクのフィギュアを見てみたい」とご提案を頂き、スラムダンクを作ることになったわけです。これはとても光栄なことでした。結果的にはバガボンドから始まって、スラムダンクへと連続して制作することになり、それが12年続いているわけです。

※バガボンド「宮本武蔵」とSLAM DUNK「桜木花道」(現在は販売しておりません)

この井上先生のシリーズを作るにあたって、一番大切にしていることは?

鈴木:まずは「むやみやたらに作らない」ということです。
商業ベース至上主義ではなく「なぜこのキャラクターを作りたいのか」ということをプレゼンして、ご理解いただいてから時間をかけて商品化させて頂いています。常にライセンサーのムーラン様と相談しながらキャラクターを大事にし、作りすぎないように心がけています。

しっかり作って長く売るということでしょうか?

鈴木:そう。たぶんこのシリーズに関わって頂いている皆さんもそこをとても大事にしているのだと思います。ブームで終わらせず継続することは、とても大切なことだと思っています。

<原型制作について>

このシリーズの原型を作るうえで大事にしていることは何ですか?

鈴木:井上先生の世界観がフィギュアから伝わるように、相当(力強く)漫画を見ながら作っています。特に顔と筋肉はすごく重要でして…。
顔は難しいです…やっぱり漫画でも最初と最後の方では違うし、(先生から)ここら辺の顔で作ってくれとは言われていない。最初と最後の絵は違うけれど、どれも花道。全部合わせたような顔にしてくれ、と。誰が見ても花道に見えるように…1巻から31巻を全部ひっくるめて花道を作ってくれ、と…それは言われました。花道に限らず、すべて全てのキャラクターが1巻から31巻まで合わせた顔になるようにしている。そこを意識して作っています。
こちらがいいと思って作った顔でも、先生に見ていただいて違うといわれることも…難しいですね、すごく。
筋肉もみんなタイプが違うので表現は難しいです。体が高校生じゃないっていうキャラクターもいるし、かなり漫画を研究しましたね。基本は全て漫画に準じています。アニメではなくて漫画。井上先生の絵を立体化した、と言えます。

<新シリーズの「One and Only」について>

シリーズの誕生について教えてください。

鈴木:版権元様(井上先生側)から、今までやってきたシリーズの中国工場の生産クオリティが落ちてきていると指摘されたことがありました…。中国での人件費や材料費の高騰もあり…制作費用がどんどん高くなり、上代を上げざるを得ない状況の中でクオリティの維持が本当に大変でした。花道の金型も10年以上使っているし…。色々検討した結果サイズを小さくして、M.I.C.でやっているデジタル印刷を活用してやってみたらどうだろうと。スケールダウンして、買いやすい価格にして…。でも小さくしても決して廉価版ではなく、表現のクオリティを上げた、ということをご理解いただけるように、試作をお見せしながらご説明をさせていただき、商品化が実現しました。

商品化までの試行錯誤を教えてください。

鈴木:この企画は、結構前からスタートしていて、3年くらい前…?いや5年くらい前かな…クオリティの問題をご指摘受ける前から実は企画はしていたのです。逆にサイズを大きくして…とか色々悩んで、イベント用に大きいのを作ってみたりしたのですが、大きいのは粗が目立つからダメだ、と。それなら小さいサイズがいいよね、と。どこまで小さくするかも色々なサイズを出力してみたり、沢山検討しました。あと低価格で集めやすいというところも重要なので、何種類か飾ったときの事を想像したりしましたね。
上代設定は結構難しかった。元々のシリーズも当初は上代が6,600円だったのですが、今では約2倍になっている。製作費が上がっている中で、サイズダウンしてもなかなか「集めやすい価格」にするのが大変でした…。それでもクオリティを維持する工夫を色々検討し、ようやく今の形になりました。

こだわったところ、と言えば?

スケールダウンしてもクオリティの高いものを目指しました。今までとの違いを出したかったから。買う方も全くこれまでと同じ物じゃ納得しないでしょう? 苦労したところは、やはり顔。先生も顔の表現をとても重要視しています。身体の表現は信頼していただいていると思っていて、体の筋肉とかスジとかは先生の描くものに似ているのかなって自分では思っています。

漫画だけど肉体がリアルという印象ですよね。人っぽいっていうか。

原作は絵だけで表現している。台詞がないのにすごく色々感じることが出来る。これはすごいって思っています。言葉がいらないというか。僕が好きだというのもあるけれど…。原型もそうありたいと思いました。 意識としては先ほども言ったように井上先生の絵を立体化したという感じ。

ポーズはどういう風に決めたのでしょうか?

ポーズは、完全にオリジナルです。先生からのポーズの指定はなかったです。通常キャラクター原型を作る場合は「漫画の〇〇ページのこのポーズ」という様な指定があることが多い。「アニメのこのシーンから取りました」とかね。でも、僕は漫画を読み込んで、「このキャラクターならこのポーズをするだろう」と考えて作った。想像です。

またそれが自然ですよね、どのシリーズもとても自然に見えます。 ところで顔の印刷は大変でしたか?

印刷は大変だけど、合いさえすればタンポより出来がいい。やっぱり印刷チームはすごいと思う。多少は造形でも直したけれど、基本はデータ版を修正したから。印刷が乗るように少しだけ微調整を繰り返した。うちの印刷チームは文句ひとつも言わず、頑張ってくれました。スラムダンクを理解してくれているのが嬉しいし、好きな人が関わってくれたということが大きいと思います。

最初から5人並んだシーンを想像していたのでしょうか?

試合中のポーズだと、並べた時に辻褄が合わなくなるので、一応5人が並んだ時に違和感のないように注意しました。

※One and Only SLAM DUNK

PKGもこだわりを感じます。フィギュアのPKGでは珍しい感じですよね…。

今回の単品のPKGは、玩具っぽくならない様にこだわりました。スポーツ用品店でも置けるような。まさかの「(本体が)見えないPKG」(笑)。某有名ブランドのスニーカーの箱を目指しました。

※スニーカーの箱をイメージした単品用パッケージ
※バスケットボールの箱をイメージした5体セットのパケージ

<今後の展望>
今後もスラムダンクだけでなく、井上雄彦先生の漫画の他のシリーズも作っていきたいと思っています。また、今後も大きめのSIMシリーズとOne and Onlyシリーズも両方あわせて作っていきたい。
One and Onlyシリーズは、サイズが小さくても、クオリティは下げずにしっかり作ったので、ぜひ5種集めてほしいです。
そして、これは最後に言っておきたいのですが、海外で色々なスラムダンクのフィギュアが出ていますが、無版権の偽物がとても多いのです。版権元様も偽物には手を焼いているので、井上先生ファンの方はぜひ公式の本物を手にして欲しいです!

最後に…M.I.C.ってどういう会社ですか?

一言で言うと、まじめ!まじめで丁寧。曲がったことが嫌いな会社。そのまじめさが、原型にも出ていて、その結果クオリティにつながっていると思っています。「まじめで丁寧な社風」がモノづくりにいい影響を与えている。モノ作りが好きな人の集団ですね。いいものを作りたい、という気持ちがとても高い。 モノづくりに直接関わっていないセクションの人でも、おもちゃ好きが多いのも良いと思います。原型制作からフィギュア販売までフィギュアに関わる全てを自社で発信する会社を目指したいと思います。

ありがとうございました!

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鈴木 剛 プロフィール
1972年生まれ
1999年~原型師として活動
キャラクターフィギュアを中心に多数の原型を手掛ける
2020年~エムアイシーの社長に就任
忙しい社長業の傍ら、原型師としても現役で活躍中

※写真と商品は多少異なりますのでご了承下さい